実は文字起こしの仕事を始める前、医療系の翻訳(治験文書や論文)を仕事にしようかと思い、いろいろと情報収集していたことがあります。
(医療系を選んだのは、大学の専門が医療系だったからです)
産業翻訳業界は文字起こし業界よりも規模が大きい?ようで、ブログや情報サイトの数も多く、家のパソコンだけで実にさまざまな情報を得ることができました。
勢い余って、アメリアという翻訳業界サイトにも登録しました。登録が1年単位なので、実はまだ幽霊会員を続けています。(2018年いっぱいで退会しました。)
実際に翻訳の勉強を始めてみると、とても自分で依頼したいレベルの翻訳(ネイティブレベル)は提供できないなと思い、自分で自分に依頼したくなるレベルの仕事ができそうな文字起こしに当面シフトしたわけですが。
まったく関係ないと思っていた文字起こし業界と、産業翻訳業界は、案外似ているところがありそうです。
まず在宅フリーランスとして働ける時点で、就労形態が似ています。
テープ起こしで検索してもあまり出てこない情報でも、産業翻訳の話題として検索すると分かることがあり、その中にはテープ起こし業界で仕事をするにも役立ちそうな情報が含まれています。
今回の記事では、その辺りのことを書いてみようと思います。
※2020/06/14 リンク切れを修正しました。
産業翻訳で仕事を得るまでの道筋
まず翻訳業界について、知っている限りのことを書いてみます。
どの分野なら翻訳してやっていけそうか見極める
出版系と実務系に分けられる
大別して出版系(文芸翻訳)と実務系(産業翻訳)があります。
出版系はフィクション、ノンフィクション、マンガ、映像(字幕)など。
実務系はビジネス、医療、IT、金融、特許など
多くの日本人は英→日の作業のほうが慣れていますが、単価が高いのは日→英だとか。
当然ながら、両方できる人のほうが重宝されるようです。
よく医療系の翻訳を試しにやってみたい人に勧められるのが
New England Journal of MedicineのAbstruct翻訳
です。登録なしに英語版と日本語版で閲覧できるので、自習に最適(だそう)です。
ビジネスや政治経済系の翻訳を試したい方には、英字新聞The Japan Newsの翻訳コンテスト。確か毎週1回(2017年は木曜日でした)掲載で、英日と日英が交互に出題されるはずです。
特許明細書は、特許庁のホームページかどこかで検索すると、英語版と日本語版の両方の明細書が存在するものに関しては見比べて教材にできるという話をどこかで読んだ気がするのですが、今探しても見つけられませんでした。すみません。
その他の分野を試しに訳してみたい場合の適切な題材については、わかりません。ごめんなさい。
翻訳を勉強する
自習する場合
英日翻訳については
無料と思えない自習サイト→翻訳の泉
書籍ではこの2冊↓
日英翻訳(医療系に特化したもの)に関しては
AMA Manual of Style 10th edition
薬事・申請における英文メディカル・ライティング入門シリーズ(全4巻)
『薬事・申請における…』は、英文フォントや数字・計算記号の記載方法、化合物や学名の記載方法など、この本で初めて知った情報が多く、今でも英文の記載で迷ったときはここに立ち戻って確認しています。訳し方の本はたくさんあるんですが、国際的に通用する体裁についてまとめてある本は、ほぼこれだけかと。
要は上のAMA Manual of Styleのエッセンスをより分かりやすく解説した本です。
正直、『AMA…』は分厚すぎてどこを読んでいいか分からない!となりがちですが、この本にはどこの章から目を通せば良いかということも指南されているので、『AMA…』に挑む前に読むことを強くおすすめします。
薄っぺらい割に高いな!!と思われるかもしれませんが、内容の濃さはかなりのもの。
この本の内容をすべて身につければ、体裁がおかしいことで納品物の質が下がるのは少なくとも防げると思います。
講演会の内容をまとめたものなので、質疑応答コーナーも収録されており、講演会の参加費+繰り返し読めると思えば、かなりお得な本であると個人的には感じています。
実際に私も買いそろえて、読みました。そして英日翻訳の難しさを思い知りました。
ただ自分で情報を得るのに論文を読むだけならば、直訳でも何でも情報が正しく理解できればOKですが
書いた人の意図を誰が読んでも正しくくみ取れるような日本語の選び方
ある日本語が直訳の範囲と判断されるか否か
そもそも日本語表記や訳語としてどれが正しいとされているのか
など、気を配るべき点が膨大なのです。生業にしている人を本当に尊敬します。
誰かに習う場合
翻訳学校というものがあり、通学や通信で受講することができるようです。
そこである程度の成績を修めると、仕事のあっせんをしてもらえることもあるようで……これは文字起こし業界にも通信講座があり、それを修了した人に仕事をあっせんする場合があるようなので、同じでしょうか?
または、翻訳チェッカーやコーディネーターとして翻訳会社に就職して、そこで実務を通して能力を身につけるという方法もあるようです。フリーランス翻訳者になる前に、一度はインハウス(社内勤務)の翻訳関連業務を経験すべきという声は多いです。これは文字起こし業界にはさほど多くない道筋かもしれません。
蛇足:能力の高い人が作ったものを、能力が低い人が正当に評価できるとは思えない
翻訳者を目指している人間に、翻訳原稿のチェック(=校正)を任せる業界のセオリー?のようなもの、正直私には理解できません。
言うなれば、経験年数20年の医師が書いたカルテを、経験0~1年の初期研修医が校正して内容や使われている用語が適切かを判断するというのに似ていると思うんですが。勉強のために先輩医師が書いたものを読むのは適切と思いますが、校正係としては力不足ではないでしょうかね。
チェッカー業務に対するチェッカーがいて、フィードバックしてくれるならいいのですが、どうでしょう。
ちなみに文字起こし会社の募集を見ると、校正者は文字起こし作業者よりも経験年数が求められますし、採用も難関のことが多いようです。これが真っ当だと思いますねえ。
仕事を探す、応募する
クラウドソーシングサイトに登録して応募する
おなじみのランサーズやクラウドワークスのほかに、翻訳専門のクラウドソーシングサイト(gengo、conyac 、トランスマートなど)があります。
このうち、gengoとトランスマートは、登録後の試験に通らないと仕事を受けることができません。
私はトランスマートの日英登録テストには合格したのですが、gengoの日英テストは落ちました。
試しに、主人が英検1級の筆記に受かっているので解いてもらったところ、やはりダメでした。
3回落ちると、次は180日経過しないと受けられません。
gengoの日英テストは、試験内容は選択式で、日本語文を訳した場合に最も適切と思われる英文を選ぶのですが、ぱっと見はどれも正しそうな際どい英文が並んでいるのです。英和辞典で調べたぐらいでは出てこないような、ネイティブにとって自然なコロケーションを問うような問題とでもいいましょうか。
相当難しいんじゃないかと思っていますが、学校や本などで勉強すれば受かるものなのでしょうか……私にとっては、さっぱり対策の見通しが立たない試験でした。
このあたりは文字起こし業界より相当厳しい印象です。
conyacは試験に合格しなくても仕事を受けることが一応できる仕組みですが、レベルアップテストがいくつも用意されていて、結局のところテストに受かって高いレベルに認定されないと、いい仕事は回ってこないようでした。
翻訳会社のトライアルを受ける
翻訳会社の募集ページから直接応募する場合と、求人サイトに載っているものに応募する場合があるようですが、とにかく会社が提示してくるトライアル課題を提出して、合格すれば契約締結、という流れだそうです。
契約締結後が本当のトライアルだという声もあり、結局のところ実際の仕事の中で信頼を獲得していかないと、仕事は先細りになるとのこと。当然ですが厳しいですね。
この辺も文字起こし業界に共通する部分だと思います。文字起こしは翻訳に比べてクラウドソーシングサイトである程度仕事が得られるので、あえて会社と契約しなくてもやっていけそうではありますが。
在宅フリーランス+トライアル=翻訳 or 文字起こし ではないだろうか
在宅フリーランスがトライアルを受けるというと、私の知っている範囲では、概ね翻訳業か文字起こし業かの二択なんじゃないかと思います(他にもあったらすみません)。
そしてネット上の情報は、翻訳業に関するものが圧倒的に多いです。
トライアル原稿を評価する立場の方が、トライアルの内情やチェックポイントを書いた本も出版されています↓
さきほど紹介した翻訳情報サイト アメリアにも、
いつトライアルを受けるか?
応募書類はどのように書けば通りやすいか?
トライアル通過後、契約の時に確認すべきことは?
会社側から見て困る受注者はどんな人?
などなど、実に細かな情報が掲載されています。
このあたりの情報は、「文字起こし トライアル」などで検索してもほぼ出てきません。
そこで「翻訳 トライアル」で情報収集するのはいかがでしょう?
翻訳者さんのブログは数多く、トライアルに関する記事もたくさん書かれています。
翻訳会社がトライアルについて書いていることもあります。
全てとは言いませんが、採用手順や雇用形態が似ているからか、翻訳業界の情報で参考になる部分は多いです。
採用側からの視点を知ることが大切
たとえば、ほんの一例としてこのページ
先ほどのトライアル現場主義!―売れる翻訳者へのショートカットを書かれた近藤さんがアメリアに連載していたページです。非会員でも読めるよう公開されているので、よろしければお読みください。
採点前のチェックポイントでまずふるいにかけられること、一緒に仕事をやっていけると思えるかどうかが見られていることなど、応募する側からでは想像しづらい現実を書いてくださっています。
ぜひ、情報収集のヒントとしてお試しください。
肩書を得るために翻訳検定を受ける
翻訳業界の検定試験と言えば、TQEとほんやく検定
どちらも、一定以上の成績で仕事をあっせんしてもらえるそうです。
この検定合格を目標に勉強するのが翻訳者として仕事を得るための一番の近道、と書いているサイトも複数あります。
ブログ等読んでいると、実際には検定試験なしで仕事を得る人も少なくないようですが。
(私は受験したことがないので、詳細はわかりかねます。すみません。)
文字起こし業界にも、仕事のあっせんにつながる検定試験はありますね。
(文字起こし技能テスト、テープ起こし検定試験、テープ起こし技能検定)
そして検定試験なしでも仕事を得る人がいるのも同じです。
結局、いちクライアントに対して満足してもらえる仕事が提供でき、それが継続できれば、資格があろうがなかろうが関係ないですものね。
ちなみに……翻訳業界において、英検やTOEIC、TOEFLの点数は参考程度にしかならないようです。
確かに、試験内容に翻訳は含まれていませんからね…
もし資格をウリにするなら、英検なら1級
その他だと通訳案内士や国連英検、工業英検の上位級を取得して記載したほうが良いようで。
それ以下の取得級を書くと、半端な実力だと晒すことになって逆効果のようです。
仕事を得たら
契約条件を確認する。秘密保持契約など必要な契約書を取り交わす。
相手の要求する条件(仕様、納期など)に従って納品する。
不明点は質問し、納品物について質問された場合にはすぐに答えられる態勢を整えておく。
請求書、領収書などが必要であれば、求められた体裁で忘れずに送る。
このあたりはどの業界でも、請負業ならば共通ですね。
クライアントと直接契約することにして、独立する
経験年数がある程度になると、直接契約を受けることも考えると思います。
これは翻訳業でも文字起こし業でも共通かと。
ホームページを作って依頼を待つもよし、知り合いのつてで受注するのもよし。
私の知っている医療系翻訳者の方は、論文執筆に役立つ表現集をfacebookやtwitterに定期的に投稿されています。ああいう営業アピールの仕方もありですね。私は実際にその表現集がきっかけで、その方を知りましたので。
ただどの業界にしろ、直受けとなると、クラウドソーシングや会社を挟んでいる場合と違って、代金回収に問題が生じた場合に丸腰で交渉しなければならないというデメリットがでてきます。
クライアント側の不払い対策として、基本的には先払いで受けるとしても、逆に万が一こちら側に何か起きて仕事を遂行できなくなった場合に、誰が代わりに返金してくれるのか?というところまで考えておかないと……などと思うと、なかなかハードルが高いです。
そういう部分も盛り込んだ契約書を作らなければいけないでしょうし。
個人的にはこのあたりをクリアできたら、いつか直受けにも挑戦してみたいものです。
支払い遅延防止機能の付いた請求書作成が目玉のようで、こういうのを使えばある程度丸腰というのは防げるかもしれませんね。
まとめ:文字起こし業界と翻訳業界の共通点
だらだらと翻訳業界について知っていることを書き連ねてまいりました。
結局のところ、
・技術を身につけて、クラウドソーシングや会社への応募で仕事を得る
・在宅フリーランスとして働ける
・結局は仕事内容への信頼を獲得することが重要相違点
・業界についてのインターネット上・書籍等での情報量
・(本文に書きませんでしたが)可能性のある年収の上限が高い。特許翻訳者のトップの方だと年収1000万近くの方もいらっしゃるとか。
ということになりそうです。
情報量の差は、共通点を生かして翻訳業界の参考になる部分を参照
(特にトライアルに関すること、在宅フリーランスとしての時間の使い方など)
して補うのがよろしいのではないかと思います。
おわり。